元EXOのクリス（本名：呉亦凡（ウー・イーファン）30）が終わった。
北京市公安局朝陽分局は７月31日、微博を通じ、「呉亦凡が何度も若い女性を誘引して性的関係を持った疑惑がある。呉亦凡を強姦罪で刑事拘留し、事件について調べている」と明らかにした。
中国で公安が刑事で拘束した被疑者が、その後、容疑を晴らせたケースはほとんどない。クリスにも言い分はあるだろうが、中国では、もうどうしようもない。複数の強姦罪で起訴され、重罪が科せられることになるだろう。
このこと自体も衝撃的だが、もっと驚いたのはクリスの映像が中国のオンライン上ですべて削除されたこと。●聯合ニュースTV
聯合ニュースTVは、中国当局が過度に過熱したオンラインファン文化に対する取り締まりを強化したとみている。
IQIYIやテンセントなど、中国の主要動画プラットフォームでは、クリスの映像をすべて削除、その数、短い映像で190万本、映画やドラマの映像だと7000本に上る。たまに見つかる関連映像はクリスの犯罪を扱ったものだけ。こういう現象は、いかにも共産圏だ。
中国内最大のインターネット協会が、クリス関連映像の削除に支持を表明し、中国映画人協会や音楽家協会、テレビ芸術家協会も、非倫理的有名人に反対するという声明を相次いで発表した。
クリスの痕跡を消すのはSNSでも同じ。中国の規制当局は、フォロワーが5000万人を超えたクリスの微博アカウントだけでなく、性的暴行の疑惑が明るみになった後も、クリスを支持してきた一部のファンクラブのアカウントも閉鎖した。
クリスのファンの一部が法的対応などを支援するとして募金運動をするなど、過度なファン心を表したことを問題視したとみられる。
中国では芸能人のファンクラブと彼らの過度なオンライン活動は、すでに何度も社会問題として指摘されてきた。2021年5月には、あるアイドル育成プログラムで、好きな練習生に投票するために、必要なQRコードを得ようと、27万本もの牛乳を購入して中身を捨てたケースもあった。
中国当局はこれを受け、芸能人のファンが集まったオンライン空間について、「芸能人ファンの非理性的行動がオンライン環境を破壊した」と指摘し、6月から規制を強化した。
クリスの性的暴行事件を機に、中国内アイドルのファンクラブ文化やSNS活動にも大きな変化が起こる見通しだ。
クリスは1990年11月、中国広東省広州市で生まれ、10歳のときにカナダのバンクーバーに移住した。2007年にカナダで行われた韓国の大手芸能事務所SMのオーディションに合格、SMの練習生として4年の訓練期間を経て、2012年4月2月、EXOのメンバーとしてデビューした。EXO は瞬く間にトップ・アイドルグループとなるが、クリスは2014年、SMに対する専属契約無効訴訟を経て、独立。以降、中国で歌手や俳優として活動してきた。
中国では今、習近平政権による「逆行」が急速に進められている。
中国政府は7月、学校での宿題を軽減させ、学習塾などの学校外教育機関を非営利組織とすることを進めると発表した。さらに、就学前の児童に英語を教えることも禁止とした。上海市では9月の新学期から、小学生の期末試験から英語の試験を除外することにした。国定教科書の枠を固め、「習近平思想」を必修にして思想教育は徹底する。
教育分野への介入のみならず、IT大手、テンセントホールディングスやアリババグループなどに対する規制も強めている。経済参考報（新華社通信系 ）は8月、「ゲームは精神的アヘン」とするコラムを発表、これを受けて最大のゲーム会社、テンセントは自ら規制を強化することに。テンセントの株価が暴落した。
ネットでのカラオケ配信サービスの自主検閲も進む。一定の基準を満たしていない楽曲、たとえば中国共産党を批判するもの、外国を賛美するもの、民主化運動を煽るもの、不都合な人物（台湾人歌手、共産党に批判的な歌手）の楽曲は排除。日本や韓国のものも対象だ。
愚民化政策、現代版文化大革命。つまり、総体として脱資本化、毛沢東時代への回帰を図っているのだ。経済発展のために認めてきた西側の価値観をもう許さない。共産党を倒す怖れのあるこの価値観を中国から排除する。
これらの措置により、中国の経済力や国民の生活レベルや自由度は低下するだろう。しかし、共産党としては中国全体を管理しやすくなり、習近平体制も盤石にできる。
加熱する芸能エンタメ・ビジネスも、検閲が強化され、急速に冷却していく見込みだ。クリスはそのきっかけ、象徴に選ばれてしまった、という面もある。そして、この流れは中国で活発に動いている韓流全体の今後に暗い影を投げかけている。
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