軍で続く暴行死

(1)またひとり軍部隊内で暴行死
2014.08.02
今(土曜日の午後9時ごろ)、韓国でアクセス数トップの記事がこれ。
やや長くなるが、全文、引用してみよう。

●聯合ニュース
28師団事件の顛末…昨年末から新兵拷問、暴行
http://news.naver.com/main/ranking/read.nhn?mid=etc&sid1=111&rankingType=popular_day&oid=
001&aid=0007048260&date=20140802&type=1&rankingSeq=1&rankingSectionId=100

 

(見出し)
李一等兵から始まった暴行・苛酷行為、尹一等兵まで続いた
水拷問・眠らせず・集団暴行…幹部も尹一等兵を暴行

(本文)
古参兵たちによる集団暴行で今年4月に亡くなった尹(21)一等兵が属する京畿道漣川所在28師団配下の砲兵大隊医務班では昨年末から転入新兵たちに対する拷問や暴行などが行われていたと軍捜査機関の捜査結果、明らかになった。

昨年末から4か月ほど暴行や苛酷行為が続き、管理・監督責任がある幹部さえも転入新兵を暴行したという。

◇昨年末から転入新兵への苛酷行為・暴行〓
軍検察が作成した28師団尹一等兵暴行死事件、公訴状によると、事件が発生した砲兵大隊医務班の李(26)兵長と河(23)兵長、李 (21)上等兵、池(21)上等兵など4人は、傷害致死と共同暴行および暴行などの容疑で起訴された。医務班の医務支援官であるユ(23)下士も、尹一等兵に対する暴行および暴行とほう助容疑で起訴された。

これらに対する28師団普通軍事法院の結審公判は5日に予定されている。
捜査結果、この部隊の古参兵たちは昨年12月から転入新兵を対象に苛酷行為と暴行をしてきたことが分かった。

公訴状によると昨年12月下旬、李兵長は、尹一等兵が転入して来る前「一番下」だった李某(21)一等兵に対し、大きな声を出していないという理由で、歯磨き粉を絞って口から飲ませる方法で歯磨き粉1本を全部食べさせた。昨年9月に入隊した李一等兵は、同年12月、同部隊に配置された。

同じ時期、李兵長は、李一等兵の声が小さくて答えになっていないという理由で、寝台に寝かせ口を開けさせて、1.5ℓのペットボトルに入った水を注ぎこむ’水拷問’形態での苛酷行為もした。

河兵長も今年1月、李一等兵が的外れな答えをしたという理由で李一等兵のほおを5回殴る暴行を加えた。

◇尹一等兵、原隊配置初日から毎日暴行・拷問されて〓
今年3月3日転入してきた尹一等兵は配置初日からほとんど毎日、暴行や苛酷な行為に苦しめられた。

陸軍のある関係者は2日「李一等兵に対するいじめが、尹一等兵の転入以後は尹一等兵に移ったとみられる」、「尹一等兵に対する古参兵たちの暴行や苛酷行為のほうがはるかに深刻だったと判断される」と明らかにした。

暴行を主導したと見られた最古参の李兵長は、尹一等兵に24回にわたって暴行を加えて11回の苛酷行為をしたと公訴状に記録されている。

李兵長は、3月初め、尹一等兵が質問に正しく答えられなかったという理由で医務倉庫へ連れていって、長さ1mの麻袋(※丸めて棒状にしていたらしい)で4~5回殴った。医務倉庫に一緒にいた李上等兵も李兵長の暴行で曲った麻袋で尹一等兵のふくらはぎ叩いた。

李兵長は、同月15日には尹一等兵の歩き方がおかしいと言う理由に、尹一等兵の大腿部側面をひざやかかとで60回暴行し、29日には尹一等兵に2時間半、騎馬姿勢をさせ、尹一等兵が足を引きずるのを知りながらも生活館を4~5回往復して走らせた。

李兵長はその後も4回、夜10時以降尹一等兵に騎馬姿勢をさせ、姿勢が乱れると直させ、騎馬姿勢が終わってからは翌朝まで眠らせず、河兵長と池上等兵は、尹一等兵が眠らないように監視した。

李兵長は、生活館の床に痰唾を吐いて尹一等兵になめさせたり、食べ物を食べている尹一等兵の顔を殴って食べ物が床に落ちると、その落ちた食べ物をなめさせるという苛酷行為も行ったと公訴状に記録されている。

◇管理・監督責任のある部隊幹部も尹一等兵を暴行=
兵士間に暴行や苛酷行為が発生しないように指導・監督すべき幹部さえも尹一等兵を暴行したことが捜査結果、明らかになった。

医務支援官として医務班で唯一の幹部だったユ下士は、3月15日、尹一等兵が李兵長から暴行を受けたという話を池上等兵から聞いても適切な処置をしなかった。

さらに、3月末、ユ下士は、尹一等兵が言われたことを理解できないという理由で、尹一等兵の頬を2~3回殴り、4月4日には、李兵長が「尹一等兵のせいで大変だ」と訴えると電気スタンドで防弾ヘルメットをかぶった尹一等兵の頭を殴りつけたりもした。

古参兵たちからいじめられていた李一等兵も4月5日、李兵長から「すぐ上の先輩であるおまえが(尹一等兵を)管理しろ」と叱責を受け、尹一等兵の胸を3回殴ったりもした。

ただし、軍捜査当局は、李一等兵も古参兵の暴行や苛酷行為の被害者で、尹一等兵に対する暴行は常習的ではなかったという理由で、李一等兵は起訴しなかった。

◇尹一等兵には輸液注射をしてさらに暴行〓
尹一等兵を死亡に至らせた4月6日、集団暴行の直前には、李兵長が苛酷行為のあと、尹一等兵に輸液(リンゲル)注射を放した事実も確認された。

輸液注射をしてから当日の午後4時7分に医務班の生活館で冷凍食品を食べていたところ、尹一等兵が食べ物を音をたてて食べるなどの理由で、李兵長など古参兵4人が暴行を加え、午後4時33分に尹一等兵は気を失って倒れた。

李兵長は、尹一等兵が小便を垂れ流しながら倒れかかったのを見て、仮病を使っていると、足で尹一等兵を暴行し、李上等兵は、尹一等兵の意識が遠のきそうになったため、水を飲ませようとしたが、尹一等兵が飲まなかったため、頭を3回殴った。

午後4時40分に尹一等兵の心臓が止まるとすぐ、古参兵たちは心肺蘇生術を実施し、救急車を呼んだ。

尹一等兵は翌日の4月7日午後4時20分に、カトリック大学の議政府聖母病院で治療を受けていた途中、気道の閉鎖による脳の損傷などにより死亡した。

ーー引用終わり

とにかく、凄惨である。
テレビでは、尹一等兵のあざだらけの裸体なども公開されている。

またしても起きてしまったか…、痛ましい、というしかない。

セウォル号の惨事でも、韓国の国民は悲しみ、大きな関心をもって見守ったものだが、この軍部隊内での暴行死というのも、長きにわたり、ず~っと国民を悲しませ、暗い気持ちにさせている、根絶しがたい、痼疾的な問題である。

合掌。

(2)軍暴行死の構造
2014.08.05
先日の軍部隊内での暴行死に関して、軍人権センター所長の長文のコメントが発表された。

尹一等兵の母親、面会に行っていたら…号泣
http://news.naver.com/main/ranking/read.nhn?mid=etc&sid1=111&rankingType=popular_day&oid=079&aid=0002624054&date=
20140804&type=1&rankingSeq=1&rankingSectionId=100

ここに掲載されているCBSの「キム・ヒョンジョンのニュースショー」という番組で行った軍人権センター所長のイム・テフン氏へのインタビューがそれ。

一部、抜粋して引用する。

イム所長の話では、尹一等兵がいじめられたのには、一番下の新兵ということ以外のも、こういう理由があったという。

イム所長)うまく話せない、どもる、返事が遅い、または口答えをする、音を立てて食べる。足をひきずる。足をひきずっていたのは、自分たち古参兵の暴行のせいだったのですが。また、暴行を受け、膝が腫れて膝の形がなくなっていたのを見て、それが変だと….

目撃者の証言では、1日に90回も殴られていたという。

イム所長)主犯である李兵長が帝王的権力を行使していました。指揮官である下士さえも、この兵長を「兄さん」と呼んで屈していました。李兵長は「自分の親父はヤクザだ」と言い、「(暴行に関することを)口外したら、おまえの親父の事業ができないようにしてやる、おまえのお袋を島に売り払ってやる(人身売買をして奴隷労働をさせる)」などと公言していたとのことです。そのため、誰も逆らえませんでした。

質問者)年齢が上の兵長が、(階級が自分より上の)下士から「兄さん」と言われていたなんて、まったく想像もできない状況だったのですね。では、上級部隊長などの管理がまったくない状態だったのですか? 軍医官とか…。本部砲隊とは距離的にどれだけ離れていたのですか?

イム所長)物理的にかなり離れていたと遺族は話しています。そして、そこ(事件の起きた部隊)は相当に独立部隊の形になっているのです。そのため、そこでは共犯となった下士がすべてを管理していました。

質問者)兵長を「兄さん」と呼んでいた下士ですね?

イム所長)だから、尹一等兵が「所願受理」(軍部隊内で上に書面で訴えること)したら、どうなるでしょう?

質問者)まさにその下士がそれを見ることになりますね。

イム所長)そしたら、さらに地獄になるわけです。そして24時間監視しながら、苦しめていました。だから、どこかに何かをなんとして知らせる、ということができなかったのです。

質問者)しかし、外部に電話もできない状況だったのですか?

イム所長)電話はできたでしょう。両親とたまには通話していたのですが、監視されていましたから。当然、話すことはできなかったでしょう。

また、この部隊では、先日、親も参加する運動会が行われたのだが、尹一等兵は「マイレージが足りない」という意味不明な理由で参加できなかったという。古参兵たちが尹一等兵を親に会わせないようにしたのだった。そのことを知った尹一等兵の母親は号泣した。

イム所長)母親は号泣しました。2日前に(軍人権センターに)来て「私が狂ったふりをしてでも(非常識な方法でも、強引に)会いに行くべきだった。会っていれば、息子のあざを見て、問題提起することができたはずなのに」と言っていました。母親はそれが無念で、悔んでいました。

質問者)では、家族は息子が死ぬまで、あのような苛酷行為があったことをまったく知らなかったのでしょうか?

イム所長)まったく知りませんでした。私は、そういう状況で尹一等兵が亡くなったとき、ほんとうに悲しかったと思います。お母さん、お父さんの顔を見ることもできず。ご両親も、意識のない状態で確認をするしかなく、悔しい思いはいつまでも続くことになるでしょう。

非常に興味深いのは、この小集団で、階級が下の兵長が、ひとつ上の階級で管理職の下士官である下士より上位にあって「帝王的権力を行使していた」という部分。

軍部隊内での苛酷行為は、韓国では「日帝の残滓」とも言われ、つまりは日本の影響だとする見方も強いのだが、違う点は、この部分だと思う。

日本の場合は、階級が絶対であり、階級より年齢や個性による具体的な人間関係が優先する、ということはまずあり得ない。

しかし、韓国ではこういうのを「下剋上」と言ったりしており、個々の現場でしばしば見られる。

思えば、韓国では、度々軍によるクーデターが成功してきた。

いわゆる「法治」より「人治」的な現象は、今も、はびこっているのだ。

尹一等兵の悲劇は、こういう環境で、イム所長の証言通り、完全に逃げ道がなくなってしまったことから生まれた。

非常に怖ろしい状況が、ぽっかりと口を開けて待っていて、うっかりすると誰でも、そこに落ちてしまう。

兵役を怖れ、なんとかして兵役逃れをしたいと考える若者(や、その親)が多いのも、このような現実をまのあたりにすると、やむをえない面もあるのだろうな、とは思うものである。

(3)徴兵制から志願兵制に転換できないか?
2014.09.10
きょうのソウル新聞で、徴兵制から志願兵制への転換をめぐる考察が取り上げられていて、非常に興味深いものでした。

まずは、その内容を、前振り部分(かつて駐韓米軍に配属された経験のある韓国人男性が、米兵たちの日課の後は個人の時間もあり、苛酷行為もない兵営生活を見て、韓国軍も志願兵制だったら…と、よく思ったというエピソード)をカットして紹介しましょう。

●ソウル新聞
二等兵を募集しても大丈夫でしょうか?
http://news.naver.com/main/ranking/read.nhn?mid=etc&sid1=111&rankingType=popular_day&oid=081&aid=0002459998&date=
20140910&type=1&rankingSeq=1&rankingSectionId=100

軍当局は、28師団のユン一等兵事件で露呈した不条理な兵営文化を改善するとしているが、軍自体の力量では限界があり、志願兵制を導入しなければならないという意見が強くなっている。特に、兵役資源が不足するにつれて、現役兵入隊の割合が高まり(91%)、以前なら軍に入ることはなかった精神的に不安定な者(原文は「心理脆弱者」)たちが大挙入隊しており、軍は「時限爆弾」を抱えているという指摘が出ている。
(訳者注:つまり以前なら入隊前の検査で、現役兵には不適格とされ、補充役や軍事支援業務などに回されていた者も今は現役兵として入隊しており、この兵士たちが銃乱射など、様々な問題を起こすケースがあり、今後もそういうケースが発生する危険がある、ということ)

新政治民主連合所属のチン・ソンジュン議員のグループが先月実施した国民世論調査によると、回答者の53.4%は、徴兵制の維持、41.9%は志願兵制の導入に賛成と、予想以上に志願兵制賛成の意見が高かった。専門家の間では、志願兵制導入の妥当性について異なる意見が出ている。しかし、志願兵制を実施するためには、兵力削減が前提とされなければならないという点と、長期的には韓半島平和体制の定着以降に、志願兵制への転換は避けられないという点では概ね一致している。

徴兵制維持の賛成論では、基本的に110万人余りの兵力を誇る北朝鮮の脅威が現存する状況で戦争遂行資源が足りなくなることに対する憂慮と、軍の人件費の上昇、そして国民皆兵主義の基本精神を損なう可能性を根拠として示している。

9日、国防部によると、現在44万4000人余りに達している兵士らの人件費は7310億ウォンで、1当たりの年収は164万ウォンほど。志願兵制の場合、兵士の年俸を平均2000万ウォンと算定しても、8兆8000億ウォンに増え、国防改革によって、兵士数を30万人水準に抑えても6兆ウォン以上にもなる。
(訳者注:きょうのレートで、1ウォンは0.10円なので、現在の兵士の年収の164万ウォンは、16万4000円。年収ですよ。志願兵制にした時の仮算年棒平均は円だと、200万円となる。最低200万ではなく、平均200万です)

アン・ソクキ韓国国防研究院研究委員は「純粋な人件費だけでなく、年金負担や教育訓練費用などを考慮すると、さらに人件費と戦力投資費用は跳ね上がる」とし、「大学進学率が80%以上であり、職業軍人に対する認識が低いなかで、志願兵制を導入すると、誰が敢えて軍に志願するだろうか」と人手不足を懸念した。ハ・チョンヨル韓国安保統一研究院長(予備役陸軍少将)は「志願兵制に転換すれば、有事の際、予備軍として活用できる兵役資源を確保するのは難しいだろう」と話した。

特に、全ての国民が兵役を公平に負担する国民皆兵制の基本原則が揺らぐという主張も出ている。「貧しい人だけが軍に行く」という歪んだ構造に変わるおそれがあると懸念される。軍隊での事件事故が、現在、国民の高い関心を集めている理由は、結局、息子を軍に送っている親たちに直結するという点で、志願兵制以降は、軍事部門の政策決定は、ともすれば職業軍人たちだけの領域に終わるおそれもある
(訳者注:わかりにくい文章だが、要するに、志願兵制にすると、国民全体の軍への関心が薄れ、職業軍人たちだけの世界になるおそれがある、ということ)

しかし、長期的観点から、国家全体の機会費用を考慮すれば、志願兵制の社会的費用は大きくなく、効率的な兵力削減と新しい戦争概念を打ち立てれば、十分に運用することができるという反論もある。特に、志願兵制を実施するためには兵力削減が前提とされなければならないが、(現在の徴兵制の場合の人件費は)安価であるため、惰性的に、多くの人材を安易に使っている陸軍が、兵力を減らしたなら、将軍など幹部たちのポストが減ることを懸念し、これに反対する保身主義が隠れているという指摘も出ている。

イ・サンモク国防大学教授によると、軍服務が学校教育や職業教育を途中で断絶させ、就職や結婚年齢を遅らせているという点を考慮すると、兵士たちが軍に入隊したことで生じる目に見えない社会的費用は9兆~10兆ウォンを超える。比較的低い報酬を支給する徴兵制は国防予算を節減できるというが、国家全体の社会的費用は考慮していないというのだ。キム・サンボン高麗大学公共行政学部教授は「機会費用を考慮すると、兵力規模を35万人水準に削減すれば、志願兵制への転換は社会経済的側面でより効果的であり得る」と評価している。

チン・ホヨン極東大教授(予備役空軍准将)は「志願兵制に転換した時は、初期投資費が増える可能性があるが、長期的に軍を先端化、専門化して精鋭軍隊にすれば、戦闘力を維持することはできる。北朝鮮軍が120万だから我々は60万を維持しなければならないという兵力中心の作戦概念を脱して、少数の兵力でも非対称兵器で、相手の虚をつくという戦略に変えなければならない」と主張した。シム・ドンボ海軍協会政策委員(予備役海軍准将)は「志願兵制自体が絶対善ではなく、兵力を削減しないと、現在の徴兵制を維持するにも限界がある。陸軍の兵力集約型の軍構造を変化させることについての議論が必要な時だ」と指摘した。

――引用終わり

この記事にはたくさんのコメントが付いおり、やはり国民的な関心事項だということがわかりますね。(今、午後9時前の時点で3318)が、ざっと見たところ、「現状では徴兵制を続けるしかない。兵士たちの待遇改善を図れ」という意見が多いのですが、「男女平等ではない。女性家族省の予算を国防部に回せ」など男性側から女性たちへの不満もけっこう多いです。(女性は、志願兵制)

志願兵制への移行については、この記事にもあるように「韓半島平和体制の定着以降」となるでしょうね。とにかく、北と対峙している現状では徴兵制を廃止することは非現実的、と考えるしかないでしょう。

韓国では兵役は約2年ですが、北朝鮮は10年ですから。(この大きな国民負担により、北は人口2000万の国ながら110万の兵力を確保している。2006年に短縮される前は13年だった)

米軍から韓国軍への戦時作戦統制権転換(2015年末の予定。だが、延期される可能性が高い)の件もからんでいるし、対中、対日関係などの動向にもよるだろうし…。

とにかく「韓半島平和体制の定着」が、1日も早く実現してほしいものであります。

(4)関心兵士という「悲劇の爆弾」
2014.09.11
きのうのソウル新聞の記事を紹介し、「以前なら軍に入ることはなかった精神的に不安定な者(原文は「心理脆弱者」)たちが大挙入隊しており、軍は「時限爆弾」を抱えている」という指摘があることに触れた。

●ソウル新聞 2014-09-10
二等兵を募集しても大丈夫でしょうか?
http://news.naver.com/main/ranking/read.nhn?mid=etc&sid1=111&rankingType=popular_day&oid=081&aid=0002459998&date=
20140910&type=1&rankingSeq=1&rankingSectionId=100

私は、これは大変な問題だと見ている。
最近、軍部隊で大きな問題を起こしている兵士の多くが、この精神的に不安定な「心理脆弱者」なのだ。

強烈な記憶に残っているのは、まず今年6月に起きた江原道高城郡兵長銃乱射事件。6月21日の午後8時50分ごろ、大韓民国江原道高城郡の警戒所付近で、陸軍第22師団部隊に所属する兵長のイム(事件当時22)が、同僚の5人を射殺、7名を負傷させて逃走。投降説得中に自殺未遂を起こした事件だ。このイム兵長はいわゆる「関心兵士」だった。

また、この事件で、イム兵長の追跡に、別の関心兵士も動員され、その一部にはK-2小銃などの銃火器が支給されたが、実弾が入っていない空砲で(関心兵士には安全上の理由から実弾は与えない場合がある)、逃走中のイム兵長と遭遇したことで問題になったりもした。

通称「関心兵士」というのは、保護関心兵士のことで、心理的に問題があるため、軍生活適応に困難があり、特別管理されている兵士を意味する。A級(特別管理対象)、B級(重点管理対象)、C級(基本管理対象)に区分される。

それから、最近の関心兵士の事件として、8月11日夜、ユン一等兵の事件が発生した陸軍28師団の関心兵士2人の同伴自殺がある。いっしょに休暇に出て、ひとりの兵士の自宅マンションでいっしょに自殺したのだった。ひとりのメモから「同じ内務班所属の兵士1人を殺したい」という記述が発見され、苛酷行為の可能性も提起されている。

さらに翌12日同日午後2時過ぎ、京畿道広州市松亭洞3軍司令部直轄部隊の射撃場で、実弾を支給されたユン一等兵(21)が自分のあごに銃を撃ち、頭に貫通傷を負って死亡する事件が発生した。この兵士も性格検査の時、自殺のおそれが認められ、A級関心兵士に分類されていた。

●国民日報 2014-08-13
「関心のない」関心兵士…2日間で3人自殺 言葉だけの保護・管理対策が明らかに
http://news.kmib.co.kr/article/view.asp?arcid=0922760885&code=11122100&cp=nv

そして、つい最近(今月6日)も、江原道束草陸軍8軍団の某部隊でソン一等兵(21)首をつって自殺した。軍は11日、司法解剖の過程で皮下出血や外傷が7カ所が発見され、関連軍当局が苛酷行為の可能性について捜査を進めていると明らかにした。この兵士も7~8月に3回にわたって、うつ病の治療を受けるなど、関心兵士に分類されて管理を受けてきたという。

最近、比較的大きく報道された事件だけでこれだけあるのである。
もはや「時限爆弾」は次々に炸裂しており、深刻な悲劇を招いているのだ。

(5)服務不適格者の入隊を防ぐには
2014.09.16
関心兵士問題の発生要因や対策案について、ポイントがよくわかる記事を見つけた。

●韓国日報 2014.08.13
保護関心兵士制度の廃止と兵士3階級に縮小すべきとの声
http://www.hankookilbo.com/v/2b28d68d5e494591b3537d0a645fb935

軍専門家らは、繰り返される軍隊内の不条理の解消のためには、指揮官の認識改善が最も優先視されなければならないと指摘した。指揮官たちからして、兵士たちを「こき使う」従属関係から尊重しなければならない共に働く相手と認識し直さなければならないという。

キム・ウォンデ国防運営の研究センターの現役研究委員は12日、「指揮官たちの視線には、幹部は両班で、兵士は常民(平民)といういわゆる『班常意識』が色濃く敷かれている。兵士たちを自分が管理しなければならない下級者だとしか考えない」と診断した。

彼は「幹部たちが兵士たちに絶対服従を要求し、『階級』を武器にするため、兵士らの間にも自然に階級を序列と同一視する兵営文化が生まれる」と話した。キム委員はまた、「兵士相互間で指示や命令を出すことができないという分隊制度(訳者注:下士官である分隊長によって指揮される10名前後の小部隊とし、指示命令は下士官が行う)を導入した後も、暴行や苛酷行為など内部不条理は数え切れないほど繰り返されるのは、歪んだ兵営文化のせい”とし、「役割にふさわしいリーダーシップを発揮できる教育を指揮官から実施しなければならない」と話した。アメリカの場合、指揮官と兵士いずれにもリーダーシップ教育を義務化している。

専門家らはまた、「現在の軍システムを改善する必要がある」と注文した。特に、保護関心兵士制度は、むしろ烙印を押される結果になるため、廃止しなければならないという意見が多かった。入隊後、服務不適応者を関心兵士として指定するのではなく、入営前に服務不適格者を選び出すことにより力を入れなければならないということだ。

チョン・ジェヨン兵営人権センター代表は「部隊の中では、誰が保護関心兵士なのか全て分かる。保護関心兵士指定自体が「いじめの対象」「遅進児」という烙印を押すことであり、「関心兵士として管理されることは服務不適応を軽減するどころか、暴行や苛酷行為に傾かせる効果を生む」と説明した。

服務不適格者を積極的に濾過するためには、根本的に兵力規模の調整が必須だ。チョン代表は「軍服務可能人口数は減っているのに、60万人の兵力を維持しようとするため、服務不適格者たちが無理に入隊することになっている」と話した。実際30年前の1984年には全体の徴兵対象者のうち、入営者は51%に過ぎなかったが、現在は90%以上が入隊している。しかし、銃と実弾を安心して任せられない兵力は戦力価値がないという点から、数字だけが大きな兵力よりは信頼できる兵力を運用するというアプローチが必要だ。

兵士たちの階級を、現在の二等兵・一等兵・上等兵・兵長の下向式4階級体系から、3階級に調整しようという主張も出ている。陸軍出身の元将軍は「階級間の序列付けがひどいので、兵士の階級数を減らすのも一つの方法」とし、「軍服務期間が36ヵ月から21ヵ月に減少し、階級別服務期間も大きく減ったが、階級体系には変化がない」と話した。階級別服務期間が短くなっただけに、階級段階も単純化すれば、位階による内務不条理を減らすのに役立つ可能性かあるという論理だ。

ーー引用終わり

非常に興味深く、示唆する点の多い内容だが、私が特に注目するのは、2つ。

まず、「入隊後、服務不適応者を関心兵士として指定するのではなく、入営前に服務不適格者を選び出すことにより力を入れなければならない」という点。

もうひとつは、「軍服務可能人口数は減っているのに、60万人の兵力を維持しようとするため、服務不適格者たちが無理に入隊することになっている。30年前の1984年には全体の徴兵対象者のうち、入営者は51%に過ぎなかったが、現在は90%以上が入隊している」という点。

つまり、少子化などで軍服務可能人口数は激減しているのに、(北の110万といわれる兵力に対抗して)無理して60万の兵力を維持するために、昔は除外されていた服務不適格者たちをどんどん現役兵として入隊させる、という非常に危険なことをしている、ということ。

こういう運営の仕方は、発想が、セウォル号の過積載問題などに通じるように思う。

保護するために、保護関心兵士として指定するのに、逆に、そのことでいじめの対象になってしまう。

こういう逆説的な現象は、理想と現実がかみ合わない典型的なケースで、経験豊富な軍当局の上の人たちは、このことをよく理解しているはずだと思う。

それを、理想論で放置してしまってならないだろう。

早く手を打たないと、悲劇は続く。

最近(2012年)の兵役法の改正は、その「手」のひとつなのかもしれない。

この改正により、1994年以降に出生した在日同胞を含めた海外同胞は、18歳以降の通算韓国滞在期間が3年以上になると、兵役義務が発生するようになった。今年、20歳になる94年1月1日生まれ以降の男子が対象者になる。 この年代以降の海外同胞は、韓国の大学で学んだり、会社に就職したりするには、兵役を果たさなければならなくなった。

私は、これは当然だと思う。
祖国の兵力が足りず、こういう様々な悲劇が起きているのだから。
今までも、自分の意志で入隊する海外同胞は一部、いた。
(在日ならともかく、言語や文化習慣がかなり異なる在米の同胞の場合は、相当、厳しい軍隊生活になったのではないかと思われるが…)
それが、韓国人なら、みんなで義務を果たそう、ということになるだけ。

いや、「みんな」ではなく、ある程度、長期間、祖国に滞在し、学業や就業でメリットを受ける同胞に限定している。

かなり穏健で合理的な法改正だと思う。


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