ボクシングでたとえて言うならば、世界チャンピオンとまではいかなくても、国内トップレベルで、世界をも狙えるくらいの実力のあるプロと、ちょっと腕に自信があるが、特に訓練は受けていない素人が、同じリングに上がってグローブを交える、そんな状況だったのではないだろうか。
前者はキム・サウンさん、後者は自殺してしまったAさん(享年29)だ。
もちろん2人は回が違うので、「直接対決」はしていないが、「チャク」では「一般の男女」としつつも一般のレベルとは違うプロがかなり入っていて、そこが問題視されていた。
どんな世界でも、プロと素人では雲泥の差がある。(アマのトップレベルとかなら話は別だが、そういう訓練、競争や選別を受けていないただの素人とプロでは、ということ)
「チャク」のようなリアリティショーは、同じくらいのレベルの素人たちで競ってこそ、公平で面白いはず。(この場合でも、やはり素人の中ではタレント性のある人が目立つようになることはなるが)
が、素人だけでは、どうしてもパンチがない、というか、視聴率を上げるには、やはり素人ばかりよりは、プロを入れたほうがいい。そういう制作者側の意図と、素人を引き立て役にして、自己PRをしたいというプロ側の希望が合致して、「チャク」では掟破りともいえる素人参加番組にプロが混じるスタイルになっていた。
もちろん、これは番組を面白くして、視聴率を上げる効果はあったのだが、この場合、一般人の参加者、つまり素人が犠牲になってしまう。(だからこういう方法は「素人参加番組」というコンセプトそのものを否定することにつながり、長続きはしない)
Aさんは、まさにそういう素人のひとりだった。
●韓国経済TV 2014-03-06 13:03
「チャク」自殺したAさん、遺書全文公開に続き友達のインタビュー、メールも公開される、その内容は?
http://news.naver.com/main/read.nhn?mode=LSD&mid=sec&sid1=106&oid=215&aid=0000069697
この記事によると、Aさんは最初から尻込みしていて、出演を辞退しようとしていたという。Aさんの友達がそのことを証言している。
この友達によると、Aさんは、「チャク」の作家と事前の打ち合わせを終えた後、番組への出演に負担を感じるようになり、辞退しようとした。しかし、制作スタッフに、すでに(ロケの行われる)済州島行きのエアチケットは買ってある。途中下車はできないと言われ、気持ちを切り替えて、「むしろと楽しむ気持ちで済州島に向かうことにした」と話していたとのこと。
また、番組収録中にこの友達に送ってきたメールには、こう記されていたという。
「私は選んでもらえなかったとしても、もう男1号(Aさんの意中の人。最初のころは、この人もAさんに好意をもっていたが、終盤は別の人に好意を向けるようになってしまっていた)に向かって直進する。でも、制作スタッフは、彼らが期待している涙を私が見せず、元気なので戸惑っているみたい」
が、これは、Aさんなりの精いっぱいの強がり、空元気からの言葉だった。
このメールの後、Aさんは最終的に「チャク」(パートナー)が決まる日の収録の直前、未明に、宿泊していたペンションのトイレで首をつってしまった。
番組の最初のほうではうまく行くかに見えた相手と、最終的にはカップルになれない、つらい役割、というか立場。その姿を執拗に追うカメラ。泣くことを期待された屈辱的な状況。
そんなの耐えられない!
と、こういう撮影に不慣れだった一般人のAさんは(一時的な感情で)いっぱいいっぱいになってしまって、衝動的に極端な選択をしてしまった、というのが大方の見方であり、私もおそらくそうだったのだろうと思う。
今年3月5日、Aさんが亡くなった直後に、済州道西帰浦警察署は、Aさんが残した遺書の全文を公開した。こういう内容だった。
お母さん、お父さんとてもごめんね。これしか、言うことはありません。私、とてもつらかった。もうこれ以上、生きていたくありません。涙が流れ続けています。バラエティに富んだ私の人生、ここで終わらせたいです。本当にごめんなさい。「愛情村」(ロケ現場)に来ている間、制作スタッフのみなさんからはずいぶんよくしてもらいました。ありがたく思っています。でも、私、とてもつらい。ただここでカップルになれるかなれないかとかではなくて、生きることに意味がなくなりました。私が愛していた人たちみんなに謝ります。ありがとう。
……。なんというべきか…、言葉が出ない。
誰が悪いというわけでもないし。Aさんは制作スタッフにはむしろ感謝しているのだ。実際、愛情村に入ってからは若者同士けっこう楽しく、わいわいやっていたのだと思う。
いっときの狂熱と興奮による事故だった、とみなすべきなのだろう。
ただ、ふつうのOLだったAさんは、このロケに参加していなければ、ふつうに生きていたはずなのだ。
そして、Aさんがみじめな立場に追いやられてしまった反対側には、勝者がいた。
それは、もちろん回が違うので、キム・サウンさんではなかったが、キム・サウンさんも、この勝者の側、圧倒的な力の差で一般女性を吹っ飛ばした側のひとりとして、過去、この番組に出演していた、ということは、ここで断言しても、差し支えないだろうと思う。
(続く)
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